大野晋「日本語練習帳」

「は」と「が」。
「は」は文の切り離し、「が」は文の接着をする。

「は」は問題を設定し、後にその答えを設定する -- 花は桜。
「は」は対比をつくる -- 私は猫は嫌い。
「は」は限度をあらわす -- 百万円にはならない。
「は」は再審をおこなう -- 美しくはあった。
 美しいという事実を認めた後、これを留保し別の問題を提起する。

「が」は名詞と名詞を接続する -- 風が静かな日。
「が」は現象文をつくる -- 花が咲いていた。
 対比: 花は咲いていた。


「のだ」、「のである」は消せる。消せるなら書かない。

「が、」を使わない。逆接は留保をうみだすため、わかりにくい文章になりがち。


文章を縮約するときのルール。
1. 縮約とは地図の縮尺のように文章全体を縮尺してまとめること。要約や要点を取ることではない。
2. 一行二十字詰め二十行の原稿用紙を使い、ぴったり二十行にわたる文章にまとめる。最後の一行、二行の空白をつくってはならない。
3. 四百字から一字はみだしてもいけない。
4. 句点、読点は一字分取る。
5. 途中に段落をつけ改行すること。全文を段落なしに書き続けてはならない。
6. 題目は字数外とする。


敬語。
やまとことばでは「近く」と「遠く」とで区別した。近くは身内、遠くは自然。

尊敬語の表現にあらわれる、ナル・アル・ラルは「自然的成立」を意味する。傷つけないように手を加えないように、成り行きのままに扱う、恐ろしい自然のまま扱うことを意味している。

「おる」はもともと「低い姿勢で座っている」卑下の意味を含んだ動作だった。